CASE STUDY

お客様によって環境は多種多様。具体的な事例をご紹介いたします。

AWS移行サービス
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 様

AWSのマネージドサービスをフル活用
UIにも工夫を凝らし業務担当者の要望に徹底的に対応

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 様

課題と効果

  • 既存システムが老朽化しており、ビジネス環境の変化に対応できていなかった
  • 業務アプリケーションが分断されており、業務担当者の負担増につながっていた
  • パッケージへの移行も検討されたが、カスタマイズに制約があり、業務担当者の要望に対応できなかった
  • 新たな収益の柱になっているストリーミングや興行物販にも対応
  • 一気通貫でデータを取得でき、多角的に把握・分析が可能となり、業務効率が向上
  • フルスクラッチでGFFをAWS上に構築し、開発から保守運用まで対応

導入の背景・課題

エンタテインメントビジネスを幅広く展開

ソニーミュージックグループのヘッドクォーターとして、エンタテインメントに関わるビジネスを多角的に展開している株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下 ソニー・ミュージックエンタテインメント)。ソニー・ミュージックエンタテインメントには約20社のグループ会社があり、音楽ソフトの企画・制作・宣伝やアーティストのマネジメントなどを行う「アーティスト&ミュージックビジネスグループ」、アニメーション作品やゲームの企画・制作・プロデュース、キャラクターを中心としたIPビジネスを行う「ビジュアル&キャラクタービジネスグループ」、コンサートホール運営やライブ・イベントなどの企画・制作、グッズ企画・制作・販売、ECショップや音楽配信サイトの運営、放送・出版・Webなどのメディア事業などによって、エンタテインメント業界の舞台裏を支える「エンタテインメントソリューションビジネスグループ」で構成されている。

ここで2019年から進められてきたのが、アーティスト&ミュージックビジネスグループの業務システムの刷新である。

「弊社における予実績管理は、まず予算を取り、売上や原価の見込みを立て企画書を作成し、そちらに取得した予算を登録し、実績連携をすることで予算消化状況を可視化して次の施策につなげる、という流れで進められていきます」と語るのは、デジタルイノベーショングループ ビジネスプロセス企画部でシステムプランナーを務める南雲 航平 氏。企画書を作成する際には、予算管理や見込管理のデータを参照する必要もあり、これらの業務は密接に関係していると説明する。

デジタルイノベーショングループ ビジネスプロセス企画部 システムプランナー 南雲 航平 氏
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
デジタルイノベーショングループ
ビジネスプロセス企画部
システムプランナー 南雲 航平 氏

以前のシステムが直面していた2つの問題

これらの業務を支えていた以前のシステムは、2004年に社内で構築されたものだったが、大きく2つの問題を抱えていたと南雲氏は振り返る。

1つ目は、ビジネス環境の変化に対応できていなかったことだ。
1990年代前半の音楽業界はCDなどのパッケージ売上が中心であり、1990年代後半からはダウンロード型のデジタル配信がスタート。そのためこのシステムは、パッケージとダウンロードの予算管理・見込管理の機能はあったものの、現在主流になっているストリーミング配信には対応していなかった。また海外配信や物販にも対応していなかったという。

2つ目は、業務機能が分断されていたことだ。例えば企画管理に関しては、制作費管理と宣伝費管理が別のシステムになっており、企画立案の際にはそれぞれのシステムを個別に利用する必要があった。さらに企画管理と見込管理が別れていたことも、業務担当者の負担を増大させる要因になっていたと語る。
「すでにシステム自体が古くなっていたこともあり、企画、予算、見込、実績を一気通貫で行えるシステムを、新たに作ろうという話が持ち上がりました。またビジネスの拡大により増大する多角的なデータを一気通貫で取得し、そのデータをもとに見込作業を精緻化していくことも求められていました」。

導入経緯(ソリューション選定)

フルスクラッチで「GFF」を開発

そこでまず検討されたのが、パッケージ製品によるシステムの再構築である。複数のパッケージを比較検討した結果、あるパッケージ製品の採用がほぼ決定。しかし、ここで、大きな問題に直面することになったと南雲氏は振り返る。
「このパッケージ製品はカスタマイズに制約があり、業務担当者の要望に対応することができませんでした。データベーススキーマはもちろんのこと、画面構成も一覧画面と詳細画面のみという制約があり、業務担当者が求める情報の表現ができなかったのです。また、ライセンス料が高額だという問題もありました。そこで、このパッケージの採用は見送りとなり、フルスクラッチで開発することになったのです」。

その開発パートナーとして採用されたのがシーイーシーだった。選定理由について南雲氏は次のように説明する。「パッケージ製品の採用について検討が進んでいた際に、パッケージにデータを渡すためのDWH開発を並行して進めていたのですが、その開発を担当していたのがシーイーシーでした。その後、フルスクラッチ開発に関する相談を持ちかけたところ、開発はもちろんのこと、以降の運用保守に至るまで、要望に対して適切な提案をしてくれたのです」。

これに加えて、AWS上での開発経験が豊富なことも評価された。ソニー・ミュージックエンタテインメントでは2018年頃から、AWSを基盤としたシステムのクラウドネイティブ化に向けた取り組みが始まっており、今回開発する新システムもAWS上に構築することが前提になっていたからだ。

そこでシーイーシーの参画のもと、新システムの開発がスタート。このシステムは「GROOVEFORCE F ORECAST(以下 GFF)」と名付けられている。
ソニー・ミュージックエンタテインメントでは社内DXの一環として、「GROOVEFORCEシリーズ」と呼ばれるシステム群が開発されており、GFFはそこに含まれる4システムの1つという位置づけになる。ただし、GROOVEFORCEの他のシステムはデータ分析・可視化を目的としたものであり、業務システムであるGFFとは立ち位置が大きく異なっている。また、ユーザー層も異なっており、他のシステムとの関連性が薄い、独立したシステムになっているという。

「GROOVEFORCE FORECAST(GFF)」の完成システムイメージ図
「GROOVEFORCE FORECAST(GFF)」の完成システムイメージ。旧システムでは分断されていた各種業務を統合するとともに、これまでサポートされていなかったビジネスもカバーすることで、知的財産をあらゆる角度から管理する「IP360」の実現を目指している。

目指したのは「IP360」の実現

GFFの開発で目指したことは、業務の予算と見込みをシミュレーションできるシステムの構築、コストの採算分岐点の可視化、経営管理機能の再構築の3つである。

まず、業務の予算と見込に関しては、ストリーミングや海外配信、興行物販もカバーするシステムを構築することだ。また、見込では、AI予測を活用した効率化や精度の向上、見込対実績の差異分析機能も搭載することになった。
次に企画管理に関しては、制作費と宣伝費の統合やツアー予算や見込との連動、売上見込対総コストによる採算分岐点の可視化などを目指した。

そして、もう1つ目指したのが、経営管理機能の再構築だ。会社全体のPL(損益計算)やアーティストごとのPLを強化し、貢献利益や営業利益、コスト構造などを可視化していこうと考えられた。

「旧システムは、配信見込、パッケージ見込、宣伝企画書、制作企画書、全社・アーティストPLに分かれており、リリース計画や採算分岐はExcelを使って作業をしていました。GFFはこれらすべてを統合することで、知的財産をあらゆる角度から管理する『IP360』の実現を目指しているのです」と南雲氏は語る。
全体としてはかなり大きなシステムとなるため、開発・リリースは機能ごとに段階を踏んで進められることになった。

まず、2021年4月に「見込シミュレーション」をリリース。これはゼネラルマネージャー以上の役職が利用する新機能である。
2022年4月には「配信見込」「興行見込」「見込差異分析」「興行PL」をリリース。これらはマネージャーだけではなく、現場担当者も利用するものだ。旧システムの見込機能はダウンロードとパッケージコンテンツのみが対象だったが、ここでストリーミングや興行の見込機能が追加されたのである。
2022年11月には「原盤予算」、2023年4月には「興行企画書」をリリース。これらは旧システムから機能を移管したものだ。
2023年10月には「興行予算」、2024年1月には「原盤企画書」をリリース。これらは新機能だ。
そして2024年6月には「パッケージ見込」を旧システムから移管。これですべてのリリースを完了したのである。

構築システムと導入効果

UI開発にはデザイナーも起用

当初の計画通り、GFFはAWS上に構築されている。まず注目すべきポイントは、マネージドサービスをフル活用することで、ビジネスロジックの開発に集中できるようにしたことだ。開発されたアプリケーションはDockerコンテナとして実装され、Amazon ECSで実行・管理されている。

また、使いやすいユーザーインターフェース(以下 UI)への徹底したこだわりも重要なポイントだと言えるだろう。UI構築に特化したJavaScriptライブラリ「React」を採用し、シングルページアプリケーション(SPA)としてUIを実装することで表示スピードを高めているほか、シーイーシー側でデザイナーを起用することで、画面の色合いやボタンアイコンなどにも工夫を凝らしているのである。

「GROOVEFORCE FORECAST(GFF)」の画面例
「GROOVEFORCE FORECAST(GFF)」の画面例。グラフの多用で直感的にデータを把握できる他、最小限の画面遷移で快適に使えるように配慮されている。またデザイナーも起用することで、色使いやアイコンなどにも工夫が凝らされている。

「業務に必要なデータを一画面に集約することで画面遷移を最小化しており、グラフも多用しています。また、表示項目の選択やフィルターの選択も画面切り替えなしで行うことができ、その結果を表示する部分だけが書き換わるようになっています。見込データを表示する画面では、実績が入った段階で見込データが実績データに自動的に入れ替わるため、最新状況の把握も容易です」と南雲氏は説明する。

これらに加えて、AIを使った予測機能を実装していることも見逃せない。ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供する「Prediction One」を採用し、Amazon EC2で稼働させているのだ。そして、ここでもシステム構成上の工夫が行われている。

AIによる予測は、サービスごと/アーティストごと/部門ごとの組み合わせに対してそれぞれ8,000 ~ 9,000パターンで行っており、それを最大12カ月分実行。予測は毎月初めに行い、翌日には結果を出す必要がある。しかしデータが膨大であるため、Amazon EC2を1インスタンス使うだけでは十分なスピードが出ない。そこで11インスタンスで並列処理させることでスケールアウトさせているのだ。
「現時点では7時間で予測処理が完了しています。もし1インスタンスで実行していたら77時間かかっていたはずです」と南雲氏は語る。

「GROOVEFORCE FORECAST(GFF)」のシステム構成図
「GROOVEFORCE FORECAST(GFF)」のシステム構成図。AWSのマネージドサービスをフル活用し、ビジネスロジック開発に集中できるようにしている。アプリケーションはDockerコンテナとして実装し、Amazon ECSで管理・実行。その他にAI予測を行う「Prediction One」をAmazon EC2上で動かしている。

日常業務と戦略立案に不可欠な存在

それではGFFは、業務担当者からどのように評価されているのか。「2024年の投資効果レビュー」で業務担当者に話を聞いた結果、次のようなコメントが得られているという。

まず、音楽・映像ソフトの企画、制作、宣伝を行うソニー・ミュージックレーベルズの業務担当者は「システムのリニューアルによってスタッフの業務効率がアップしている」「システムの集中管理によって予算/実績の管理が強化されている」とコメント。特に興行・物販については、近年売上が増加しているにも関わらず、対応するシステムがなかったため、GFFの開発は意義が大きいと評価されている。

またアーティストのマネジメントを行っているソニー・ミュージックアーティスツは「ライブマネジメントビジネスの基幹システムとして完全に定着」「ひとつひとつのライブが企画、予算、見込、実績まで、一気通貫できるシステムであるため、現場マネージャーから経営陣まで日常的に使用されている」とコメント。GFF導入以前は網羅的にライブなどの実績が把握できていない状況だったが、導入後は全アーティストの実績が把握できるようになったため、動員を軸とした精度の高い実績管理・見込み策定が可能になっており、現在は経営戦略を立案する上でなくてはならないものになっている、と評価されている。

今後の展開と期待

ユーザー要望を聞く姿勢も高く評価

GFFを開発したシーイーシーへの評価は高い。その中には、AWS上での開発力・技術力やデザイナーまで起用した盤石の開発体制に加えて、業務担当者の要望を徹底して聞く姿勢への評価も含まれている。

「業務担当者の要望のヒアリングは、2020年10月からソニー・ミュージックレーベルズ、2021年4月からはソニー・ミュージックアーティスツとの定例会議をそれぞれ週に2回ずつ開催して行っており、現在は落ち着いたため頻度を減らしながら継続しています」と南雲氏。つまり毎週4回は業務担当者からのヒアリングに費やしており、これに加えてソニー・ミュージックエンタテインメントの開発チームとの定例会も毎週3回行っていたのだという。

「ユーザーの要望は当初からかなり多かったのですが、2023年4月からはユーザーが一気に拡大した結果、問い合わせも増えていきました。シーイーシーはこれらもいいスピード感で捌いてくれるため、たいへん助かっています」。

今後もシーイーシーと共にGFFを展開

現在のGFFは「アーティスト&ミュージックビジネスグループ」の業務を支える存在だが、今後は他のビジネス領域にも拡大していく計画だ。2025年度には「ビジュアル&キャラクタービジネスグループ」への展開が計画されており、「エンタテインメントソリューションビジネスグループ」への展開も視野に入っているという。

「最終的には企画から予算、見込、実績までのすべてGFFに統合していきます。この取り組みも、シーイーシー以外のパートナーでは無理だと思います」と南雲氏は、今後もシーイーシーと共に進めていきたいと語った。

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
デジタルイノベーショングループ
ビジネスプロセス企画部
システムプランナー 南雲 航平 氏(中央)

開発パートナー

株式会社シーイーシー
ビジネスイノベーションサービス事業部
首都圏サービス部 諸石 直子(左)

モダナイゼーションサービス事業部
マイグレーションサービス部 志村 誠(右)
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 様
WEBSITE

ソニーミュージックグループのヘッドクォーターとして、株式保有によるグループ全社の経営・管理を行うとともに、総合エンタテインメントカンパニーとして多角的にビジネスを展開。「アーティスト&ミュージックビジネスグループ」「ビジュアル&キャラクタービジネスグループ」「エンタテインメントソリューションビジネスグループ」の3つの事業セグメントを柱に、新たなエンタテインメントの創出にチャレンジし続けている。

設立  :2003年4月(創立1968年3月)
本社  :東京都千代田区六番町4番地5
従業員数:約4,700名(ソニーミュージックグループ計)
事業内容:エンタテインメントビジネス
URL   :https://www.sme.co.jp/

 
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
※記載の情報は取材時のもので、閲覧時には変更されている可能性があります。
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